のんびり鉄道紀行

カメラを持ってふらふら鉄道旅をした記録を綴っています

釜石線~遠野駅編~


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二日目の宿がある遠野に着いたのは、日も沈んだ夕方過ぎであった。

遠野といえば、柳田國男氏が著した「遠野物語」の舞台となった街であり 昔から民謡などの昔話が語り継がれる場所でもある。
本編は119話から成り、続いて発表された『遠野物語拾遺』には、299話が収録されている。
また、これらの話は 今も尚存在している語り部の方から実際にインタビューを元に綴った内容である。


今夜宿泊するホテルには、なんとその語り部さんが時間毎に昔話を話して下さる会があるそうなのだ。
これは貴重な時間になるぞ とふつふつと期待が込み上げるが 駅を出れば物語と言えども、そこは東北の山に囲まれた街である。
物語だけに雪女でもいるんじゃないか と絶するような寒さに たまらず宿へ向かう足を加速させた。




部屋に荷物を置き、早速語り部さんがいらっしゃるホテルの地下へと移動した。
降りた先には、畳がひかれた広々とした和室が目に入る。昔ながらの部屋の造りを再現したものなのか 炉畳もそこには備え付けてあり、火が付いてないのにも関わらず 何故か体がぽかぽかと暖かく感じられた。

語り部と思われる年配の女性が 来客だと気づいたのか優しい笑顔で出迎えて下さった。
シーズンによって訪れる数に変動がある様だが今回の来客は筆者一人だけ。
「楽にして下さって良いですよ」と声を掛けてくれたが 広い空間に一対一という状況という事もあり、少し緊張した赴きになり思わず正座をしてピンと背中が伸びて聞く姿勢を整えた。





語り部さんは〝昔話の夕べ〟という冊子を配ってくださり、そこに収録されている話を一つずつ語り始めた。


「昔あったずもな(そうな)、、、」


遠野物語の話は全て遠野の方言で紹介され、全ての話の冒頭は、「昔あったずもな、、、」から始まる。
通常で言う「昔々あるところに、、、」と同じ様な意味合いだ。
全てが方言で展開されるので、多少話しの筋が分かるなくなる事もあるが、集中して最後まで耳を澄ませば大体の散りばめられた要点が線で繋がっていく。

今回話して下さった物語は「オシラサマ」・「河童淵」・「ザシキワラシ」の代表的な三つ。
昔話らしく不思議な内容が多く含まれているが決して今のアニメや本などの様にハッピーエンド多い訳でもない。むしろ逆に腑に落ちないようなものがほとんどなのだが、何にせよ聞き終わった後に更に興味を持てる話であることは間違いない。

また、物語発祥から名づけられた物の話まで そのストーリーの幅は様々である。
話の時間も一話、五分程度のものから一分のものと異なるので あっという間に語り部会の時間は終わってしまった。
もっと聞いてみたいという気持ちを抑えつつ、立ち上がろうとすると 足が思っていたよりも痺れていたらしくその場でヨロッと倒れてしまう。。。
心配して声を掛けて下さる語り部さんに「いや、ちょっと気を抜いてしまって、、、」とよく分からないカッコつけた言葉で返してしまう。
もし、この中で語り部の会に参加される読者の方がいるのなら 〝無理に正座を続けてはいけない〟ことをオススメしておく。






貴重な話を聞いた後は、宿に向かう途中で見つけた居酒屋に行った。
地元民に親しまれている飲み屋らしく、時期的に新年会で盛り上がっていたが 何とかカウンターへ通してもらうことが出来た。

「遠野街道」という気になる日本酒を見つけたので、それと合わせる様に「うに刺し」と「めかぶ」を注文する。 image




遠野街道は冷酒で頂いたのだが、想像を超えるようなフルーティーな甘みに 寒さでひどく乾燥した身も心も潤う様な心地いい気分になる。
うに刺しも これはまたトロトロと舌にまとわり付くような濃厚な味を放ち、めかぶは人生初めて口にしたが もずくと似ている外見とは違いコリコリとして食感がたまらない。更にそれに加え付け合せの大根おろしが 独特な辛味は皆無であり、また新鮮で美味しいこと。

これだけでも満足であるというのに、隣から何やら気になる会話が聞こえてくる。


「本当にここのコロッケは美味しいよな」
「ああ、おふくろの味を超えるくらい上手いんで ついついいつも頼んでしまうよ」


、、、なんとコロッケが美味しいとな?
地元の常連客ほど信用できる口コミは無いというのが筆者の鉄則でもあるので、通りがかった店員にすぐさま コロッケを注文した。
ちょっと安易な気もするが、たまには人に流されてみるのも大事なことだと一応言い訳をしておこう。



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そして、楽しみに待ちわびた待望のコロッケが出てくる。

衣がサクサクとした俵型で見ているだけでも食欲をそそる一品だ。
早速口に運んでみると、サクッと割れた軽すぎない衣から出てきた ジャガイモがずっしりと詰まっており、まろやかにホクホクと筆者の舌を滑り降りていくのだ。
これぞまさに 母の味。
出てくるもの全てに感動するような上手さのラインナップである。


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最後にサービスで自家製で亭主が漬けたというカブの漬物をいただいたのが 着色料を使わずに天然でこの赤さを実現しているようで 酢の味が程よく混ぜ合わせあり爽やかな味わいに箸が止まらないのである。

もし、遠野に未だ妖怪などがいるとしたら、こんな美味しい食べ物を作ってしまう 居酒屋の亭主がもしかしたら、、、とも思ったが それはさすがに失礼な話か。